■ 総評
駒込の住宅街に佇む「活鰻の店 つぐみ庵」は、完全予約・一日最大10名限定の特別なうなぎ・焼き鳥専門店。民家を改装したプライベートな空間で、食体験そのものが“贅沢な家庭料理”の枠を大きく超える。店主夫妻の温かい人柄と徹底した職人仕事が、全ての料理に魂を吹き込んでいる。
■ 店舗・雰囲気
閑静な路地にある暖簾も控えめな一軒家。扉を開けると、まるで友人宅に招かれたかのようなアットホームな空気が広がる。靴を脱いで上がると、座敷には手作りの温もりが満ちており、他のお客と顔を合わせることなく、気兼ねなく贅沢な時間を独占できるのが最大の魅力。

■ 料理・ドリンク
まずは瓶ビールで乾杯し、先付けの「しらすとわさび漬け」から。
塩気と香り、そしてちょっとした辛味が絶妙で、舌を一気に“和食モード”へと引き上げてくれる。
続くしめ鯖は、まさにプロの手仕事。
驚くほどなめらかで、今まで食べてきたどのしめ鯖よりも一線を画す完成度。焼き鳥や鰻のお店でこれだけのクオリティに出会えるのは意外。

焼き鳥パートは、手羽の先の先。
プルンとしたコラーゲン感とやさしい旨味、生八味の余韻がアクセントになる。

鶏つくねは驚異的なやわらかさ。
つなぎを使わず丹念に仕込まれ、たれの風味も深い。鰻への期待を盛り上げる名脇役だ。
骨抜きの手羽先は絶品中の絶品。
ジューシーで脂がのっていて、食感の妙と旨さの一体感が抜群。

日本酒は宮城の鳳陽 大吟醸。
優雅で膨らみある飲み口が料理と調和し、鰻の肝とヒレとの相性も格別。
そして真打ち、鰻の白焼き。
注文後に焼き上げるため、熱々の状態で登場。沖縄とヒマラヤの岩塩を合わせて使い、素材そのものの持ち味を極限まで引き出す。
ふっくらしつつ、香ばしさと旨味が立体的に広がる。これまで食べた白焼きの中でもトップクラス。

うな重は、あえて蓋をせずにサーブされる。
その理由は皮の食感と身のしまり、そしてタレとご飯の一体感を最大限に楽しんでほしいから。身は引き締まり、脂は程よく、まさに“魚としての鰻”の本領発揮。これほど純粋に「魚の旨さ」を感じるうな重は滅多にない。皮の食感も唯一無二。
仕込み・焼き上げ・盛り付け、全ての仕事に無駄がなく、店主と女将の連携もまた温かい物語を感じさせる。奥様が時折扇で火を送り、ご主人の負担を減らす光景にも、家族経営の温かさとプロフェッショナリズムが共存している。
■ まとめ
「つぐみ庵」のうな重は、味・香り・食感・余韻、全てが五感に刻まれる唯一無二の存在。予約困難だが、食通なら一度は経験すべき究極の鰻。家庭的な雰囲気のなか、世界最高峰の職人仕事が堪能できるこの空間は、“人生の一食”に値する。再訪の難しさもまた、その価値をさらに引き上げている。
訪問日:2017/02/03
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