地方の隠れた名店が表舞台に登場

日本料理

菊川に現れた新たな舞台「おぶね」——常連の座敷から全国の美食家へ

静岡・菊川市の住宅街にひっそりと佇む「おぶね」は、黒塗りの外観が放つ高級感と気品で、訪れる者を一瞬で非日常へ誘う。創業20年、これまで常連にのみ門戸を開いてきたが、近年は全国の美食家にその味を届けるべく一般公開を開始。いま注目を集める一軒だ。

おぶねの外観

サービスと空気感

カウンター越しに伝わる大将の気さくな弁と、ホスピタリティあふれる接客。地方の隠れ家らしい温かさと、名店らしい緊張感が程よく交わり、居心地のよい空間を作り上げている。飲み物は田崎真也監修。シャンパンから始まり、日本酒・ワインまで幅広く揃い、食材と響き合うマリアージュが楽しめる。

おぶねのシャンパン

季節を彩る前菜と酒肴

冒頭を飾ったのは、銅鍋で10日間を費やして炊き上げた青梅。すっきりとした酸味と柔らかな食感が、夏の始まりを告げる。続く胡麻豆腐はピスタチオと白味噌の調和が光り、蒸し鮑は低温調理でしっとりと仕上げ、キャビアの塩味と肝の旨味が深みを添える。

おぶねの蒸し鮑とキャビア

静岡夏野菜の天ぷらでは、生でも食せるとうもろこしや甘太郎、石川芋など、地元食材が加計呂麻の塩で際立つ。土瓶蒸しはポルチーニと蛤の濃厚な旨味が凝縮され、滋味豊かな味わいに仕上がっている。

おぶねの春野菜の天ぷら

造りと焼物の妙

お造り盛り合わせはエンガワ昆布締め、鱧、カンパチ、カツオ。天城の山葵が香り高く、静岡の terroir を体現。

おぶねの御造り

続いての鮎の塩焼きは友釣り天然物を用い、根曲がり竹を添え蓼酢でいただく贅沢な逸品。ふっくら焼き上げられた鮎本来の滋味を丸ごと堪能できる。

おぶねのアユの塩焼き

米ナスの二色田楽はクリームチーズと白味噌が絶妙に絡み合い、和洋折衷の楽しさを演出。ワインとの相性も抜群だった。

食事と締めの一皿

土鍋ご飯は万願寺唐辛子と紫蘇の香りが立ち上り、食欲をさらに掻き立てる。続くメインは「遠州夢咲牛のトリュフすき焼き」。肉質の柔らかさと脂の甘みが絶妙に調和し、土鍋ご飯にのせて味わえば、至福の贅沢丼が完成する。

遠州夢咲牛のトリュフすき焼き
遠州夢咲牛のトリュフすき焼き
遠州夢咲牛のトリュフすき焼き

デザートは桃のイタリアンジェラートをコニャックと共に。食後の余韻を穏やかに締めくくるにふさわしい一皿であった。

総評

「おぶね」は、地元静岡の旬食材を軸に、和食の伝統と創作性を高次元で融合させた一軒。全国的にも希少な存在感を放ち、菊川まで足を運ぶ価値を十二分に感じさせてくれる。地方の隠れ家が、いま全国区の美食舞台へと歩みを進めている。

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訪問日:2022/07/10

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