■ 総評
銀座の隠れ家「盡」は、焦げと香りを極限まで操る“香りの魔術師”が手がける唯一無二のイノベーティブコースが魅力。わずか6席、完全予約制で、一斉スタートという特別な緊張感のなか、全身で料理体験を味わえる。素材の本質と調理の妙味、食の五感すべてに訴えかけてくる極上の一夜。
■ 店舗・雰囲気
カウンター6席のみ。
予約時刻になると、まるで劇場の幕が上がるように扉が開き、そこから特別な物語が始まる。
店内には煮込まれた魚の出汁の芳醇な香りが漂い、時間と空間の区切りがここだけ別世界となる。

■ 料理・ドリンク
ファーストインパクトは、焼き魚の塩と水のみの出汁。
無駄を削ぎ落とした滋味、香り高さが際立つ。
一皿目は竹岡の太刀魚 ヒオウギ貝のソース。
スダチを霧吹きで纏わせて、皮はパリッと、身はふっくら。強烈な旨味と酸味のコントラストが秀逸。

続いて白子のロワイヤル。
滑らかな食感と芳醇なコク、火入れと焦がしの技術で素材の旨みが極限まで引き出されている。

三品目は愛媛の甘鯛 シャンパンと礼文島のホタテ煮込み。
ホタテは意図的に味が抜けきっており、主役は甘鯛。3時間煮込みの柔らかさと繊細な香りが余韻を残す。
四品目は根室のうにと礼文のホタテ 京都千鳥酢仕立て。
スダチの酸味と塩の効いたミニ丼仕立て。塩味の中に隠しきれない旨味が凝縮されている。
自家製バターとバゲットは、箸休め的ながら小麦の香りとミルキーな味わいで印象に残る。

五品目は神奈川の黒ムツ 青リンゴと牡蠣のソース。
脂を丁寧に落としながら、焼き上げの香ばしさとソースの甘酸っぱさが新しいハーモニーを生む。
六品目は兵庫・明石の天然牡蠣と由比の桜エビ ベシャメルソース焼き。
天然物の牡蠣に濃厚なソース、桜エビの風味が合わさり極上の一体感。
オーブンで2時間という手間暇が味わいの深みとなって現れる。

七品目は淡路島カマス バルサミコと松島ハゼのソース。
軽快な魚の食感と濃密なソースがアクセント。
八品目は岐阜郡上の鴨 ヒレ・モモ肉 リンゴと赤ワインの煮込みソース。
特に肝の状態が良く、ソースにも活かされている。鴨の奥深い旨味に酔いしれる。

八品目の締めは庄内米のご飯。
菜の花・れんこん・そらまめ・石川芋・淡路島海老のブイヤベース仕立てで、出汁文化の新解釈。
和とも洋とも言えない、新しい“ご飯の体験”だ。
デザートは竜田川をイメージした干菓子と浮島。
金時人参とくず、甘さ控えめの和スイーツで、最後までイノベーティブなアプローチが貫かれる。

狭山茶は一煎ごとに香り・甘味・苦味と味の変化を楽しむ。
■ まとめ
盡の料理は、素材選び・火入れ・香りの付け方、そして出汁のアプローチまで全てが独創的で唯一無二。
“和の技法を使いながら和に留まらない”美学、そして雑味を徹底的に排除したクリアな旨味が印象的。
完全予約制の緊張感とライブ感、訪れるたびに新しい発見がある。予約困難店だが、一度は体験したい食の芸術。
訪問日:2017/11/21
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