■ 総評
麻布十番の住宅街に佇む「ふくだ」は、素材選びと丁寧な仕事に徹底的にこだわる正統派日本料理店。
季節の旬を贅沢に味わうコースは、職人の技と夫婦の温かさが随所に感じられ、都心にいながら旅情を感じる上質な時間を体験できる。
■ 雰囲気・空間
路地奥にひっそりと佇む数寄屋造りの空間は、カウンターと小上がりを備え、落ち着きと温かさが共存する。
和やかな照明と清潔感のある設えは、肩肘張らずに上質な食事を楽しめる雰囲気。
調理場を囲むカウンター席はライブ感抜群で、大将と女将の連携も美しい。

■ 料理・ドリンク
この日のコースは、秋の味覚が主役。
最初は瓶ビールで乾杯し、ずいきとあわびの旨煮からスタート。
調味料を最小限に抑え、素材本来の滋味を引き出している。

続いて、中国雲南省産の松茸。
3日ほど熟成された大ぶりの松茸をふんだんに使い、香り・食感ともに素晴らしい存在感。

「宇和島の甘鯛と松茸の椀」は、2kg超の甘鯛と手でほぐした松茸がたっぷり。
淡い出汁とともに口の中で広がる旨味の層が圧巻で、この店ならではの贅沢感を味わえる。
刺身は、北海道根室のさんま。
芽ネギ・生姜・大葉を添えてあり、不漁の中でも極上の秋刀魚を提供してくれる心意気に感服。
身の締まりと脂のバランスが絶妙で、口の中でとろけるような食感が堪らない。

次は、北海道網走の釣りきんき。
活〆で身の張りと脂の乗りが格別。香ばしい焼き加減が印象的。
日本酒は七賢のひやおろし、伯楽星の特別純米、澤屋まつもとのTojyoなど、料理と合わせて複数種を楽しめる。
山口ののどぐろは、水菜と松茸の揚げ浸し、黒七味のアクセント。
脂の旨さと淡白さを兼ね備えた一品で、秋の訪れを感じさせる。
松茸のフライと新銀杏は、揚げることで香りが一層引き立ち、サクサクとした食感も楽しい。

焼きナスと煮穴子は、芳ばしい焼き茄子を大きな穴子で覆い、箸を入れた瞬間の香りが鼻腔をくすぐる。
煮汁も旨味が滲み出ていて、最後の一滴まで飲み干したくなる。

いくらと鮭の親子丼は、この店の真骨頂。
大将が土鍋でご飯を、女将がイクラを。
夫婦でにこやかに盛り付ける様子はまさに“夫婦丼”。
いくらの柔らかな粒立ち、鮭とご飯のバランス、何度でもお代わりしたくなる美味しさ。

赤だしは4種類の味噌をブレンドし、コク深いが重くなりすぎない絶妙な味わい。
デザートは無花果をアールグレイのジュレと共に、余韻まで季節感と上質さが続く。

■ サービス
女将の柔らかい接客と、大将の職人気質が心地良い距離感。
会話を楽しみながらも、一皿ごとに最高の状態で供される料理の数々。
カウンター席では調理のライブ感や臨場感も味わえ、贅沢なひとときを過ごせる。
■ まとめ
ふくだは、旬の素材・丁寧な仕事・夫婦の温かなもてなしが三位一体となった、都内屈指の日本料理店。
食材、技、空間、サービスのすべてが高いレベルで調和し、誰にでも安心して薦められる一軒。
“鮭といくらの親子丼”の幸せを求めて、再訪必至の名店だ。
訪問日:2017/10/10
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